開発ストーリー
「楽器をうまく持つことが難しい子ども達とも、一緒に音楽をしたい」。アームワンダは、そんな想いから生まれました。
一人のためから生まれたプロトタイプ我が子のはじめてのリアル楽器体験へ
ベースユニット開発(プロトタイプ)は2020年2月、肢体不自由の息子向けに製作。当初は、打楽器を叩く事ができない息子の打楽器演奏サポートツールとして開発し、子どもの好奇心を引き出すため、効果音や光演出などの機能を実装していました。
きっかけは、息子の療育園最後のお遊戯会のクリスマス会。息子を始め体の不自由な子供達は、介助の先生に手を添えてもらって一緒に楽器を鳴らす操作をしていました。一見するとどこまでが本人の意思で操作しているのか分かりにくい状況でした。「自分の力だけで楽器を鳴らせる様な体験が作れないだろうか」——しかし、探しても応えられる市販品はほとんど無く、「無いなら、自分で作ればいい」と、ワンスイッチで打楽器を叩ける「打楽器ハンド」を自作しました。叩いた瞬間に楽しい効果音が鳴る仕掛けや、車椅子用アームへの取付対応など、まず「楽しい!」と思ってもらえる事を大切に。できあがった試作機で、息子はいろんなモノを楽器にして叩いて遊んでくれました。
仲間達の困り事から広がる世界2020年5月、オンライン研究会「オリィの自由研究部(β)」から広がった、「一緒に演奏したい」を叶える手段へ
2020年5月、障害当事者と支援者・エンジニア達によるオンラインコミュニティ「オリィの自由研究部(β)」(オリィ部)内でうまれた、仲間からの一つの相談事——バンドJERRYBEANSの皆さんと特別支援学校の子ども達が、一緒に楽器を演奏してライブを体験できる環境を作りたい。その想いを実現しようと音楽Projectが立ち上がり、障害を持った当事者プレイヤーと製作者(武器屋チーム)とでテストプレイ&改良を行う取組みを重ねてきました。
※「オリィの自由研究部(β)」は、分身ロボット「OriHime」開発者・吉藤オリィ氏が主宰する、障害当事者と支援者・エンジニア達によるオンライン研究コミュニティです。オリィの自由研究部(β)について詳しく
コロナ禍でなかなかリアルに集まれない音楽Projectのメンバー達とは、Zoom+SyncRoom(Yamaha)を活用した遠隔セッションという形で毎月練習を重ね、公式イベント等で発表演奏する機会を重ねてきました。
当初は、セッションしやすい楽器として「ハンドベル」に注目し、ハンドベル専用の楽器演奏装置(ベルに小型バチを当てる装置)を、当事者へのヒアリングを重ねながら一品製作していました。その後、ハンドベル以外の楽器にも使えないかと模索し、打楽器などの力強いリアルな楽器の演奏へ応用できるシステムを検討する中で、以前に製作した息子向けプロトタイプ打楽器システムを活用する事になりました。
そこで、息子向けに開発したプロトタイプ打楽器システムから必要最低限の機能にシンプル化した装置を開発。2021年・2022年にはオリィ部内で製作チームを募集し、レンタル用計40台の量産製作にもトライアルしました。
写真提供: JERRYBEANS 様
当事者の「〇〇したい」から生まれる無数の可能性ハンドベルから様々な楽器、そして生活支援へ
2022年6月に「スイッチで鳴らせるハンドベル演奏アーム」として一般公開・発信したところ、支援学校や関係者から多くのお問い合わせをいただき、多くの反響にたしかな手ごたえを感じていました。
そして、更に本機器の応用事例や汎用性の高さを強く感じていました。開発当初は「ハンドベル演奏」に特化していましたが、当事者プレイヤーにモニター実験をしてもらう中で「あの楽器も弾いてみたい」「こんな事にももしかしたら使えるかも」と実活動の中で試してもらい、数々の応用事例が生まれていきました。
その結果、ハンドベル・ギター・太鼓などの多種類の楽器演奏はもちろん、食事・スポーツ・イベント等のシーンで使えるライフアシスト(生活支援)にも展開可能な、汎用シンプルアーム装置へと進化してきました。
これは肢体動作に制約を抱える多くの方に、日常生活の中で使える機器として広がっていくのではないか——その様に考え、機器としての量産性(コスト面・品質面)の改善や、日常的に使いやすい機能進化などに取り組んできました。
当時の発信(X投稿):
楽器をうまく持てない子供達とも一緒に合奏、セッションしたい! そんな想いから生まれた 【スイッチ操作でできる楽器演奏アーム装置】 オリィの自由研究部(#オリィ部)の製作メンバーと障害を抱える演奏メンバーが一緒になり改良を重ねて2年 ついに、ALS啓蒙イベント会場にてレンタル提供する事に
今日は「日本ALS協会千葉県支部 設立35周年の集い〜未来を信じて〜」で、オリィの自由研究部音楽部の皆さんと一緒に演奏をお届けします♬ 会場の方にも、この装置でハンドベルを鳴らしてもらって、一緒に楽しい時間を過ごせたらなと思います✨
必要としてくれる方の日常へ届け続ける
2023年7月以降、「アームワンダ」と名称を改めて一般向け提供を開始。SNSなどでの発信から始まり、使ってくださった方の口コミで広がり続けています。2026年7月時点で650台以上のご提供をさせていただいております。
アームワンダを多くの当事者・支援者に提供して分かった事、それは——物理的に動く事は、自己表現・コミュニケーションを分かりやすく拡張するという事。
重度障害の方は、発話が難しかったり、表情などで自分の意思をうまく周りに伝える事が苦手だったりするのですが、アームワンダを通す事で「楽しんでいる」様子を物理的に周りに分かりやすく伝える事ができるのです!
実際に、使ってくださった方々からは、こんな「リアルな声」が届いています。
「アームワンダのお陰で毎日、『自分でできる』に触れることができるようになりました。単純な動きだからこそ、応用がたくさんできて、しかも操作が超簡単で支援者に超優しい♡ きっと、何かできないかな?でも難しくて私には無理だと諦めていた支援者はかなり多いと思います‼︎ 一歩踏み出したら、必ず変われる‼︎ 自信を持って言えます」
— 支援者「学習発表会、うちの子が自分だけで太鼓をたたける姿を見れた! あんなに自分から何度も手を伸ばして動かす姿を見て、『この子はこんなに音楽が好きだったんだな』と実感できた事、素敵すぎる想い出になりました! これからも、うちの子が楽しいと思える事をたくさん見つけてあげたいと、前向きになりました」
— 当事者家族「支援者がいなくても、子ども達が一人で取り組める環境を作れる。子ども達の主体性があがった。担当してる生徒が自分でできる事を、周りに伝える事ができて嬉しい」
— 支援学校教員「自分の意志でベルを鳴らしたい時に鳴らせるのは、とてもうれしい」「『右!』『もうちょっと左!』って雰囲気を友達の輪の中で一緒に楽しめてる感覚が大事」
その様子を見た周りの支援者も「楽しそうにしてて嬉しい」「他にも楽しめる事があるんじゃないか!」とテンションが上がり、もっと色んな事にチャレンジしようと思える。そして、ポジティブなループが生まれていくのです!
■ 口コミとリピートで、現場から現場へ。
広がり方は、派手な宣伝ではありませんでした。「まず試しに1台」と支援学校に導入された1台がシェアされるうちに貸出表が埋まるほどの人気になり、「追加で数台作ってほしい」というリピートに。「〇〇さんが使っているのを見て、ぜひ私も使ってみたい」という口コミの連鎖で依頼が続き、支援学校からの公費購入事例も増え続けています。「障害福祉・療育の分野で、本当に必要とされているんだな」と胸が熱くなる——これこそが、誰かのために作り続ける一番のモチベーションです。
■ 100種類の応用は、すべて「ひとつの共通ユニット」から。
「スイッチを押したらアームが動く」——ただそれだけのシンプルな仕組みを、エンジニアではない当事者・支援者でも日常の中で“超簡単”に使える様にしたら、現場から次々と工夫と発明が生まれてきました。これはエンジニアだけの世界では生まれない発想です。機能は作れても、価値まで繋がらない事が多い。体が動かない故の困り事と、「自分の力でやりたい」と願う人達との共創があったからこそ、この機能は“価値”へと繋がりました。「できない」「やってみたい」は、発明の母です。
■ アームワンダは、あくまで“手段”。
大事なのは「これを使って何をするか」。これまで難しいと思っていた手段が身近にあるからこそ、「こんな事もできるかも」というアイデア出しや試行錯誤が現場で生まれていきます。支援現場での工夫やアイデアこそ、発明の源泉。【自分の力で、物理的に動かせるは価値だ】と実感するばかりです。
参考書籍
開発メンバー
ベースユニット開発(HW/SW)
おぎモトキ(OGIMOテック開発室)
プロトタイプ製造・応用事例模索
オリィの自由研究部(β)
音楽Project 楽器製作チーム(武器屋チーム)、プレイヤーチーム
モニター使用くださった皆様
ロゴ製作



























